個性的な紙の辞書と東ドイツ時代の本

約1年前に引っ越して以来、本の整理を進めています。検索ができるように電子化もしているのですが、よく使う辞書には紙の辞書もたくさんあります。 

テクニカルライター英和辞典

「key」というと鍵やキーボードのキーが思い浮かびますが、技術翻訳では機械要素のキーがよく出てきます。「機械用語大辞典」(日刊工業新聞社)には「回転軸に歯車やプーリなどを固定して,トルクを伝達する場合に用いられる機械要素の一つ」と書かれています。この用例を載せている辞書は少なく、あの海野さんの辞書にも訳語は載っていますが数百ある例文には(ざっと見ただけなので見落としているかもしれませんが)見当たりません。そこで仕事机の横のスタンド形本棚に置いている「テクニカルライター英和辞典」(三省堂; 増補新装版)を見てみると「(キー;回り止め、抜け留め用の)くさびキー」という訳語と共に多数の例文と図も載っています。

例:

… secured by a key against turning キーで回転を阻止されている…

訳語だけではどういうものか把握しにくいので、コンパクトな辞書ですが手放せません。

ずっと絶版で、古書が2万円もする時期があったのですが、2008年にインデックスを加えた増補版が出ました。このような辞書が再版されることは珍しいので、多くの方の支持があったのだと思います。 

国語辞典で自動詞か他動詞かを調べる 

最近立て続けに「エンジンを作動する」という文を目にし、「作動する」は他動詞?と思い辞書を引いてみました。

ところがCD辞書やATOK辞書では、広辞苑、大辞林、大辞泉、で「作動」の項を見ても自動詞他動詞の区別等は載っていません。明鏡、岩波国語辞典、新明解、三省堂国語辞典には「自サ変」と記載されています。ただほとんど例文が載っていません。そこで昨年十人十色の勉強会で講師の川月現大さんがお薦めされていた「集英社国語辞典第3版」と、子供のお下がりの「ベネッセ表現読解国語辞典」を引いてみました。両方に例文も動詞の種類も載っていましたし、ベネッセの方には「エンジンが作動する」という例文までありました。国語辞典は収録用語も例文も、文法的な解説もそれぞれ個性的なので、じっくり読める紙の辞書も大事ですね。

「エンジンを作動する」と書いた方は多分「エンジンを始動する」(自動詞・他動詞)と混同したのではないかと思いますが、自動詞としても他動詞としても使われる動詞で普段どちらかの用法でしか使わないような場合、正しいのかどうか判断に迷うことがあります。

いつもは「遺跡出土品を復元する」(他動詞)というような文しか目にしていないと、「システムが復元する」、「変形してもある温度以上に熱すると元の形状に復元する合金」(これは「元の」が復元の「元」と重なるので余計引っかかりますが)、というような文を見ると、あれっと思ったりします(「復元する」は自・他両方)。

また外来語を動詞化した言葉(「スライドする」など)は、自動詞か他動詞か判断つかない場合があります。そういうとき、辞書に動詞の種類が記載されていると助かります。ちなみに「スライドする」は自動詞としても他動詞としても使えます(集英社国語、新明解、三国)。

 

てにをは辞典

大事な辞書を忘れていました。やはり三省堂の「てにをは辞典」。この辞書は明治以降の、主に現代作家の文章から著者の小内一さんが抽出されたコロケーション辞典で、単語の前後に続く助詞や名詞、動詞、形容詞などが載っています。「作動」の項にはまず「を」とあり、作動のまえに「を」がついて「機械を作動する」、という使用法があることを示しています。文法的な自動詞他動詞の区別ではなく、どのような結合語と使用されるかということを教えてくれる辞典です。

「復元」を引いてみると「世界像を」、「はにわを」「壁画を」という言葉が前に来ることがわかります。やはり普段は他動詞としてしか使われていないようです。自動詞として使うのは、特許明細書や仕様書など、技術関係の文章に限られるのかも知れません。

コロケーション辞典は他にも色々あるのでまた近いうちにご紹介します。

 

 

紙の辞書しかなかった頃 – 東ドイツ(に関する)本たち

本の整理をしていて、いつどこで買ったのかわからない、持っていたことすら忘れている辞書がありました。写真の左上下2冊、研究社の文法辞典と同義語辞典、両方ドイツ語の辞典です。「英語青年」のイメージが強い研究社も、昔はドイツ語の辞書を出していたんですね。

2015-05-27 11.27.37

 

ヨアヒム・ガウク

上の写真は虫干しのため広げた本ですが、中央上はヨアヒム・ガウク(現ドイツ大統領)が壁崩壊直後にシュタージ(秘密警察・諜報機関)文書の廃棄・隠蔽を阻止したいきさつを記したノンフィクション。廃棄されてしまった文書も少なくないようですが、それでも機転と決断力で膨大な記録を救った彼の功績は計り知れません。

ルディ・ドゥチュケ

右上は西ドイツの学生運動家ルディ・ドゥチュケの伝記。東ドイツに生まれ、兵役を拒否して大学進学の道を断たれ、壁の建設直前に西ドイツに亡命したマルクス主義者。その独特の語り口と説得力のある演説、ヒナギクのように可憐なアメリカ人のガールフレンド(後に結婚)と手を取り合ってデモに参加する姿で学生たちを魅了し、学生運動のカリスマとなるが、スプリンガー各誌の反学生運動キャンペーンにあおられた青年にベルリンの街中で呼び止められ、銃撃される。一命を取り留めるも重い後遺症が残り、さらに命の危険にさらされてアメリカに亡命を試みたが「共産主義者」と見なされて入国を拒否され、ヨーロッパを転々と逃避行する。ドイツ全土から寄せられた多額の義援金は仲間の裏切りでどこかに消えてしまい・・・。

日本ではあまり知られていませんが、数奇な運命という言葉はこの人のためにあるのかと思える波瀾万丈の生涯。残念ながらドイツ再統一を目にすることなく、銃撃の後遺症が原因で79年に死去しています。

ヘルビヒとブッシャ

中央下は東ドイツで「外国語としてのドイツ語」の第一人者だったゲルハルド・ヘルビヒの文法書(ドイツ語不変化詞辞典)。我ながらなんとマニアックな選択!ヘルビヒはヨアヒム・ブッシャと共著で「現代ドイツ文法」も書いていて、日本でも在間進さんの訳で三修社から出ています。この二人の著書は東西統一前からゲーテインスティテュートの先生方も良書として推奨していました。

そして右下はDDR(ドイツ民主共和国)の憲法。ベルリンで露天の古本屋から買ったのだと思うのですが、インターネットもなかった時代、いつか仕事の役に立つと思ったのかもしれません。

立派すぎて置き場に困る

そして極めつきはこれ。

2015-05-27 11.24.08

 

何だと思います?東ドイツで出された百科事典です。全5巻、ビニール装ですがオールカラーで、紙の質も他の本に比べたら格段に上等です。国力を示す必要があったのでしょうか。これを買ったのは友人に連れて行かれた旧東ベルリンの古本屋でした。中庭の緑が美しい、窓の多いお店で、古本屋にしては広くて明るく、店主も若い研究者風だったので鮮明に覚えています。仕事用ではなく東へのノスタルジーで購入しました。今まで調べ物で使ったことはありません。これから使うことはあるのでしょうか。

 

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